淡路島（兵庫県）の夏の味覚「ハモ」は湯引きした梅肉あえや白焼き、てんぷらと味わい方もさまざまだ。関西では、京都の祇園祭や大阪の天神祭りに欠かせない食材で、高級魚としても知られるが、一体、漁はどのように行われているのだろうか。淡路島南部、南あわじ市の南東約４キロに浮かぶ沼島（ぬしま）のハモ漁の漁師、安達一富さん（４７）のはえ縄漁に同行させてもらえることになった。はやる気持ちを抑えながら海に飛び出した。 （勝田康三）
生きたサバを餌に
微風で晴れた６月１５日午後４時半ごろ、沼島港で安達さんと落ち合った。ちょうど、はえ縄漁で使う仕掛けの入ったざるを漁船に積み込むところだった。
「乗って」と一言、促されて乗船。無駄なおしゃべりは一切なしの雰囲気に、緊張感が走る。
沼島沖合の紀伊水道の漁場に向かった。漁を手伝う安達さんの叔父、金次さん（６７）が漁船後方の隅で座椅子に腰掛けてスタンバイ。ざるは１２個で、１つで６０本の針がざる枠にきれいに取り付けられている。
漁船はゆっくりと漁場を進む。金次さんは針に餌となる１５センチほどの生きたサバを取り付け、リズミカルに海に投げ込んでいく。操船する安達さんは合間に漁船のいけすからサバを網ですくい、狭い船の前後を行き来した。２時間ほどで仕掛けを終え、目印のブイを設置して港へ戻った。
一定間隔に釣り糸をつけた長さ１キロメートルのはえ縄を１２本沈め、水深約４０～５０メートルのハモを狙う。ハモ漁の手法には一度にいろんな魚類と一緒に獲る底引き網漁もあるが、それに比べると、身に傷がつかず生きたまま捕らえられる伝統漁法という。
「しんどい仕事」
沼島は海底が泥質で、日中は砂や泥に隠れる夜行性のハモにとっては絶好の住みか。かつては伝統漁法を行う漁師が多くいた。
安達さんは漁師の家に生まれ、高校卒業後すぐに船に乗った、この道３０年のベテラン。漁を始めたころ、はえ縄漁を行う家はほかにも数軒残っていたが、「こんなしんどい仕事はなかなか続けられへん。いまは沼島で自分とおじさんの２人になった」と照れるように笑った。
仕掛けを引き上げるために、再び出漁したのは午後７時すぎ。今度は安達さんと２人だけで沖に出た。緊張感はさらに増す。辺りは薄暗く、淡路島や対岸の和歌山県の小さな明かりが遠くに見える。空は曇りで星はなく、夕方の暑さは収まり涼しい風が吹き抜けた。
引き上げは４つのいけすがある漁船の前方で行う。「釣ったハモを順番に入れていくんや」。安達さんはブイを取り上げ、巻き上げ機ではえ縄を巻き始めた。釣り糸を手繰り寄せながら当たりを探る。開始早々は当たりが少なく、「きょうは少ないかもしれん」と首をひねった。
しばらくすると、「ハモや」と短く言って上体を少し海に乗り出し、背中越しにハモを釣り上げた。怒り狂ったかのようにくねくねと船上で暴れ回る。しかし手慣れたもの。素早く釣り糸を包丁で切り、鉄棒に引っかけていけすに入れた。
上がったハモは獰猛（どうもう）な“顔つき”で歯はギラギラ。近づいて撮影しようとしたら、「かまれたら大けがやで」。安達さんも過去に何度かかまれたことがあるといい、そのときは「じっとするねん。ハモが疲れて放すまで。無理に取ろうとしたら肉を裂かれる」と怖いことをさらっと言う。
１００本つり上げて…
ハモを一目見て重さを把握して「８００グラムぐらいか。京都で人気なのはこれぐらいのハモ」と解説する。１～２キロだと「沼島の人間が好きな大きさ」、２キロ超えの大物だと「フライが絶品」。腹の色具合でも「白より黄色の方がうまい」と、作業を続けながら教えてくれた。
いけすの中では大きいハモが小さいハモにかみついていた。雑食で、何でも食いつくといい、名前の語源は「喰む」からきている説もある。「海のギャング」とも呼ばれるだけあって、迫力は満点だ。
この日は仕掛けの半分を残して終了。午後１１時すぎに港に戻った。釣果は「いつもの半分程度」と安達さん。大小のハモ１００本ほど釣り上げたが、翌日、生きたまま出荷できたのは約６０キロだったという。
たった半日の同行取材だったが、はたから見てもハモ漁は危険が伴う重労働だ。沼島に残るハモ漁漁師。船上に満ちた緊張感は、海で戦う男の誇りに裏付けられたものだろう。最高においしいハモを届ける海の男の心意気を垣間見た気がした。
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June 25, 2020 at 08:30AM
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