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妊娠中の母親の魚摂取量が、出生後の子どもの微細運動などに関連 - スポーツ栄養Web

妊娠中の母親の魚の摂取量と、生まれた子どもの手や指などの微細運動や、問題解決力の発達に関連がみられることが報告された。環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを解析した結果で、富山大学の研究グループの論文が「The American Journal of Clinical Nutrition」に掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

妊娠中の母親の魚摂取量が、出生後の子どもの微細運動などに関連

環境省は、子どもの健康や成長に影響を与える環境要因を明らかにし、子どもたちが安心して健やかに育つ環境を作ることを目的に、2010 年度に大規模疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」をスタートした。胎児期から出生後13 歳になるまでの健康状態や生活習慣を、2032年度まで追跡調査しており、さまざまな知見が報告されてきている。

胎生期のn-3PUFAの重要性を示す報告が増えている

今回発表されたデータは、妊娠中の母親の魚の摂取量と、出生後の子どもの発達との関連を解析した結果。魚にはn-3系多価不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸〈DHA〉など。n-3PUFA)が豊富に含まれている。n-3PUFAは成人のうつを抑制するといった報告が多数あり、脳や神経を形成するための必須栄養素でもある。

これまでにも、妊娠期に魚を摂取すると産まれてくる子どもの神経発達に対して好影響があると報告されていた。その一方で、母親の魚の摂取と子どもの神経発達には関連がないとする研究結果もあり、一致した見解が得られていない。

妊娠期の魚摂取量を5分位に分け、子どもの神経発達を比較

解析の対象は、エコチル調査の研究登録者10万4,065人から、有効なデータが得られた約8万人。母親の魚の摂取量を五分位(少ない、やや少ない、中程度、やや多い、多い)に群分けし、第一五分位(少ない)群の子どもを基準に他群の子どもの神経発達レベルを比較した。神経発達の指標として、ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition(保護者が記入する発達評価ツール)*という指標を用い、生後6カ月と1歳時点に評価した。

ASQ-3は、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会という5領域の神経発達レベルをスコア化する。本研究では、各領域ごとにスコアを集計し、-2SD(標準準偏)以下だった場合に、「発達が遅めである」と定義した。

*ASQ-3は、保護者が自分の子どもを観察して回答した結果から得られる指標。「コミュニケーション(話す、聞くなど)」、「粗大運動(立つ、歩くなど)」、「微細運動(指先で物をつかむなど)」、「問題解決(手順を考えて行動するなど)」、「個人・社会(他人とのやり取りに関する行動など)」の5領域について、各年齢時での発達レベルを評価する。なお、本研究では、-2SD以下を「発達が遅め」と定義したが、この遅れが何らかの疾患と関連するかは明らかでない。

微細運動スコアに有意な関連、粗大運動とは関連せず

母親の年齢、出産歴、出産前BMI、教育歴、世帯収入、婚姻状況、飲酒・喫煙・身体活動量、就労の有無、先天異常の有無、子どもの性別、妊娠中の EPA・DHAサプリ使用の有無で調整した多変数ロジスティック回帰分析の結果、コミュニケーション、個人・社会、および、立つ、歩くなどの粗大運動という3領域は、母親の魚摂取量との関連がみられなかった。

その一方、問題解決、および、指先で物をつかむなど微細運動という2領域は、以下に図示するように、母親が妊娠中に魚を多く食べている群で子どもの神経発達が遅めになる割合が少ないという、有意な関連が認められた。

生後6カ月での問題解決

魚介類摂取量の第5五分位(多い)群では、発達が遅めになるオッズ比が有意に低下し(OR0.88,95%CI0.79-0.99)、魚摂取量との有意な関連が認められた(傾向性p=0.01)。

生後6カ月での問題解決

(出典:富山大学)

生後1歳での微細運動

魚介類摂取量の第5五分位(多い)群では、発達が遅めになるオッズ比が有意に低下し(OR0.90,95%CI0.81-0.99)、魚摂取量との有意な関連が認められた(傾向性p=0.02)。

生後1歳での微細運動

(出典:富山大学)

生後1歳での問題解決

魚介類摂取量の第5五分位(多い)群では、発達が遅めになるオッズ比が有意に低下し(OR0.90,95%CI0.81-0.99)、また、第4五分位(やや多い)群でも有意に低下しており(OR0.89,95%CI0.81-0.98)、魚摂取量との有意な関連が認められた(傾向性p=0.005)。

生後1歳での問題解決

(出典:富山大学)

n-6/n-3比と、問題解決の発達との関連

上記は魚摂取量との関連の解析結果だが、これをn-3PUFA、または、リノール酸やアラキドン酸といったn-6PUFAの摂取量で解析した場合も、結果は同様の傾向が認められた。ただし、両者の比との関連を検討すると、n-6/n-3比が高くほど問題解決の発達が遅めになるオッズ比が高くなることがわかった。

水銀摂取量への注意は必要

以上の結果より、著者らは「妊娠中の魚摂取は子どもの6カ月および1歳時の一部の神経発達領域の遅れを抑える方向に関連している。その要因として、多価不飽和脂肪酸の関与が考えられる」とまとめ、「妊娠中の魚摂取はこれまでと同様に、本研究からも推奨されると言える」と述べている。

その一方、注意点として、魚には程度の差こそあれ、神経発達に対して悪影響のあるメチル水銀も含まれていることに触れ、メチル水銀を多く含む魚(とくに大型魚)の摂取については気をつけるべきであることを、ニュースリリースの中で解説している。

また著者らは、本研究の解釈について、介入研究ではないため因果関係はわからないという留意点を挙げている。魚の摂取量が多い人は一般的に健康意識が高く、その健康習慣の影響を表したものである可能性もあり、魚またはn-3PUFAを摂っているからといって発達が遅めになりにくいと結論づけることはできず、「今後の研究が必要」としている。

プレスリリース

妊娠中のお母さんの魚摂取と生まれた子の発達の関係(エコチル調査より、富山大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Maternal dietary intake of fish and PUFAs and child neurodevelopment at 6 months and 1 year of age: a nationwide birth cohort--the Japan Environment and Children's Study (JECS)」。〔Am J Clin Nutr . 2020 Aug 7;nqaa190〕
原文はこちら(Oxford University Press)

関連情報

子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査、環境省)

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スポーツ栄養Web編集部

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August 27, 2020 at 10:21PM
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