これまであまり多く語られなかった趣味「渓流釣り」を深掘りするべく、俳優の美村里江さんにインタビュー。長年、美村さんが打ち込んでいる渓流釣りの面白さ・心構えについてお話しいただいた前編に続いて、後編では、俳優業との共通点や、道具へのこだわりなど、多岐にわたってお話を伺いました。
注:「新型コロナウイルスの自粛要請のため、今年はまだ一度も釣りに行っていません。県をまたいでの移動が解禁になるまで、もうしばらくの我慢です」(美村里江)
(文・岡本尚之 写真・長田果純)
何ごともストイックに取り組むのは、デビュー時に感じた「後ろめたさ」から
――前編では「夫に教わったのがきっかけで渓流釣りにはまった」というお話がありました。その中で「一流の人に学ぶと上達も早い」という言葉が印象的だったのですが、これはご自身の俳優業とも重なることですか?
そうだと思いますね。夫は子どもの頃から海釣りも渓流釣りも多々経験していて、腕前を見ていた周囲の釣り師が「教えてください」と集まることもあります。彼から教わったことでどんどんのめり込みましたし、成長したんだと思います。
俳優としての演技・役作りにも通ずるものですけれど、誰かに教えてもらう際は、一流の人に教えてもらうのが一番早いんです。
型をまねするのがうまい、と言われたことがあるのですが、渓流釣りでも早い段階で釣れるようになったので、夫は「これが役者さんのスキルなんだろうね」と驚いたようでした。
加えて120%の努力、一生懸命にやること。よく言われることですが、実際にやってみると途中まではきついんですよ(笑)。でも打ち込み続けると、あるところから「楽しい!」に変わります。
最初に知識を得ることは大切です。さらに、その取り入れた知識に対して身体的な拒否感がなくなり、なじんできたときに初めて、獲得できるものがあると思うんです。そのあたりに関してはスポ根で、千本ノックの感覚でやっています。
――そうした、ストイックに物事に取り組む姿勢は昔からでしょうか?
この世界に入ったときからだと思いますが、そこにはデビュー当時の複雑な思いが関係しています。
初出演・初主演のドラマ「ビギナー」は作品として大好きですし、主役としてデビューさせていただいたのは本当にありがたいと思っています。とはいえ、オーディションで合格したからといって、演技の経験がなかった私がプロの方々の中に入る、ということに後ろめたさがありました。
当時たくさんの人たちに寛容に受け入れていただいたことを考えると、私がちゃんと成長しなければ、恩義のある人たちに迷惑がかかると、ずっと思いながら過ごしてきたんです。
だから、役をもらったら、とにかくひたむきに取り組んで、経験を血肉にしないと、申し訳が立ちません。そのことが、今の姿勢につながっているのだと思います。
実際、一生懸命にやってみると、絶対に良いことが待っていることを、体験として分かっているんですね。たとえば料理でも、外食でおいしかったメニューを家で再現しようと試行錯誤していると、その結果として、別の料理にも役立つことがあります。それは俳優業でも同じです。
「きつい」を乗り越えて「楽しい!」まで行けば実を結ぶ。これを知ってからは、何ごともポジティブに考えられるようになりました。ちょっとしたことが、人生を豊かにしてくれるんです。
釣り竿(ざお)によって、水中での感覚がまったく異なる
――趣味と仕事との折り合い、時間の割り振りはどうされていますか。
よく、時間をどうやって確保しているのかと聞かれるのですが、読書や渓流釣り、演技の勉強、それに家事や、料理も好きなのでやっていますけど、時間が足りない……と思ったことはないですね。渓流釣りにも、お仕事のスケジュールをうまく調整して行っていますし。
私のいくつかの趣味は、それぞれが独立しているわけではなく、ひとつの幹から枝葉が多数分岐しているように、地続きだと思っています。
石や昆虫採集の趣味も、渓流釣りとつながっていますし、絵本好き、小説好き、本はなんでも好き。文章を書くことも好き。今は大きな趣味として、読書と渓流釣りに熱中しているので、そこに付随したものを好んでやっているのかなあと。
俳優業のほかに、文章のお仕事をいただくことも多いのですが、それこそ以前は、なんとか“うまく”書かなければと、四苦八苦していました。ですが、30歳を過ぎた頃から、今の自分にできる最大限のことをやろうと思えるようになりました。
かっこうつけてやったところで、物事がうまくいくとは限りません。身の丈にあった、そのときにできることをきちんとやろうと決めてから、書くことが以前よりも楽しくなりましたし、執筆のスピードも上がりました。
背伸びをしようとして(書くための)言葉が詰まっていたんだな、と気付いてから、書くことがさらに楽しくなりましたね。
――渓流釣りでは、道具へのこだわりもありそうですね。
そんなに自慢できるものはないのですが(笑)、こういう網や、キャップ、渓流釣り師必携の熊スプレー。糸・錘(おもり)・針・鋏(はさみ)などを装備した釣りベストも必需品で、今使っているものは夫からの誕生日プレゼントです。

渓流釣りに行く際の道具一式
竿でいうと、ダイワさんの「連山」は本当に良いんですよ。オークションに出ても、あっという間になくなってしまうくらい、釣り師の中ではよく知られた名品のようです。同じ会社が出している後継の竿を使っても、やはり全然違いますから。
納竿時にグラム数が一緒だったとしても、伸ばしたときの軽やかさ、しなり方が違ってきます。
何本か、ほかの竿を使ってみましたが、やはり私はこの連山の6.1メートルにあまりにも慣れているので、すごく細かいアタリ(編注:魚が食いついたサイン)も分かるくらいに、自分に合っているんです。

手に取っている竿がダイワ「連山」
たとえば、釣り糸が流れていて、錘があり、針の先には餌のミミズが付いているとして、そのミミズが石に当たったとするじゃないですか。その感触すら分かるんですよ!
ミミズが水底の石に触れるくらいのいい塩梅(あんばい)に流れているか、錘が軽すぎて浮いているか、まで分かるんです。感覚的な話なので、やったことのない方には意味が分からないかもしれませんが(笑)。
水の中の環境を手で感じ取れるというのが、脈釣り(編注:浮きを使用せず、糸の動きや手に伝わる感触でアタリをつけて釣る方法)ではマスト。この竿はそこが優れています。正直、ほかの6メートル竿で釣れないな、と思っているときにこれに替えると釣れちゃうくらいに、感覚が鋭敏。ごく小さい稚魚でも釣れてしまうくらい。
以前、連山を折ってしまったことがあるのですが、パーツを差し替えてしまうと、もうその微細さは失われるんですよね。バイオリンも弦ですごく変わると言われますけど、それくらい違うんです。

左の竿がシマノ「渓峰」
もう1本は、しっかりした造りのシマノさんの「渓峰」、8メートルの竿です。「連山」と「渓峰」、普段はこの2本を持っていって、釣り場によって8メートルと6メートルを使い分けています。10メートルだと重すぎて、私の腕では持っているだけで疲れてしまうので、広いところだと8メートルを使っていますね。
渓流釣りを始める前に、危機管理として入念な準備を
――釣った魚をご自宅で飼育されているんですよね。写真を何枚か送ってもらいましたが、たくさんいて驚きました(笑)。

全長40センチのイワナ (提供=美村里江さん)
今いる一番大きなイワナは夫が釣ったもので、もう2匹のイワナは私が釣った、岐阜の山奥の出身ですね。私が初めて釣ったサツキマスもいます。サツキマスは貴重なので、連れて帰りました(笑)。
イワナは、人にすごくなつくんですよ。かわいくてフレンドリー。ずっとこっちの顔を見ながら泳いで定位して、手を振ると喜んでくれる魚なんです。渓流の王ですし、そういうイメージはたぶんあまりないですよね。蛇も小鳥も食べるから獰猛(どうもう)と言われますし。
夫は災害救助などをやっていた医博(医学博士)で、魚の研究もしていたのですが、定期的に川に戻していたため、イワナがこんなになつくことを知らなかったそうです。我が家のイワナは私たちが食卓でご飯を食べているのをずっと見ていて、手を振るとおおはしゃぎです(笑)。
こんな感じで、私がイワナについて熱弁していると、友だちがからかい半分に見に来るんですね。「何を言っているんだ……」と思いながら来て、「イルカみたい!」と驚き、帰るときには魚の名前を呼んで「バイバイ!」というくらい好きになってくれるんです。

全長35センチのサツキマス (提供=美村里江さん)
今はイワナが3匹、サツキマス1匹、アロワナ1匹、モンハナシャコが1匹、我が家に棲(す)んでいます。アロワナは国際条約があるので、ちゃんとした手順を踏んで、認可されているペットショップから購入しています。

全長28センチのアロワナ (提供=美村里江さん)
びっくりしたのが、夫が以前飼っていた先代アロワナが18年生きていたこと。長寿なのは知っていましたが、そこまでとは……。飼育のプロのおかげで、我が家の水槽は安泰です(笑)。
――これから渓流釣りを始める人、初心者へのアドバイスはありますか?
緑豊かな川で素晴らしい時間を楽しむために、危機管理として入念な準備も大切です。
特に3点気をつけてください。
(1)熊スプレーを用意すること
鈴を付けて熊よけをしている方もいますが、熊は賢く個体差が激しいので、鈴の音を聞いて逃げる熊もいれば、「なんの音?」と、近づいてくる熊もいます。遭遇してしまった場合、熊が驚いている間に逃げるのが唯一助かる道なので、熊スプレー、マスタードスプレーを持っておくのがいいと思いますね。
(2)繁殖期にあたる10〜2月は禁漁期間、そして遊漁券が必要
漁の解禁期間は川によって違うので、漁協のサイトをチェックした上で、遊漁券のご購入をお忘れなく。この売り上げで川の環境を保っているため、とても大事です。今はオンラインでも購入できるそうですよ! 同じ川でも上流と下流で管轄が違うこともあるので、気をつけてください。
(3)いざ釣り場に行ったら状況に合わせた安全確保を
渓流では事故も多いので、とにかく怪我(けが)をしないように。同じ川の同じ釣り場でも、天候や水量によって驚くほど違った足場になりますから、川へ着いたらまず周辺をよく観察してくださいね。特に女性なら日焼け止めも必要ですし、虫よけもそうですね。ここも事前準備を徹底してください。
釣りやすいポイントについては、現地情報に勝るものはありません、地元の慣れている釣り師や釣具屋さんに、うまく頼んで教えていただきましょう。
おまけに……これはほんとうに個人的なお願いなのですが、ゴミを見つけたら拾ってくれるとうれしいな。私たち夫婦は必ずゴミ拾いをして帰るので、ポリ袋を常備しているんですよ。袋一枚分は拾って帰ります。
捨てるつもりがなくても、うっかり落としてしまうこともあるので、それらを見つけ次第、袋に入れて、分別して捨てる。釣りをする人が少しでもこのことを実践すると、川の環境はかなり変わると思うので。
ぜひぜひ、みんなの川のために、ゴミの回収はやってほしいですね! 余裕があったらお願いします。
(ヘアメイク・渡辺真由美〈GON.〉 スタイリング・高橋さやか)
美村里江(みむら・りえ)
女優、エッセイスト。1984年、埼玉県深谷市出身。2003年「ビギナー」で俳優デビュー。ドラマ・映画・舞台・CMで活躍。またエッセイや、書評などの執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。最近では6月8日にテレビ東京にて放送される「新・信濃のコロンボ 追分殺人事件」に出演予定。先日、初の歌集『たん・たんか・たん』(青土社)を出版。
『たん・たんか・たん――美村里江歌集』
著者:美村里江
発売日:2020年4月22日
価格:1,800円(税別)
仕様:四六判並製/192ページ
出版:青土社
同書は、エッセイストとしても活躍する美村里江さんの、初の歌集。住み慣れた街の風景、お気に入りの小物、目にもおいしいたべもの、なつかしい物語の世界、役者という仕事、そしてかけがえない人々の姿など、すべてのいとしきものたちへの想いを、美村さんが三十一文字のこころおどるリズムで綴(つづ)る、ト書きのない日々の歌が収録されています。
衣装協力(価格はいずれも税別)
・ブラウス 16,000円
・パンツ 15,000円
(Johnbull Private labo Harajuku)
・ネックレス 15,000円
・リング 9,000円
(petite robe noire)
・ベルト (スタイリスト私物)
《お問い合わせ先》
・Johnbull Private labo Harajuku 03-3797-3287
・petite robe noire 03-6662-5436
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May 29, 2020 at 10:38AM
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